初心者の気持ちになることは 斯くも難しい / 補助輪付きのソフトが欲しい

2012/04/24ブラウザ将棋, 将棋入門

先日、「 素晴らしい初心者向けコンピュータ将棋ソフト「こまお」」という記事を書いた。その後、「こまお」関連の記事を見ていると、人が初心者を理解するのは斯くも困難なのだな、と思うような記事もぽつぽつある。もちろん「こまお」の価値を認めて賞賛したり感謝する記事の方が多いのだけど。


以前「知ってること・できること・理解していること・教えられること」という記事を書いたときにも思ったのだが、「簡単なことをちゃんと教えてくれる人は少なく」「素質のある上級者ほど、無意識にいろいろなことを学ぶので、初心者がどこで躓くのかさっぱりわからなくなる」。往年の名打者であった長嶋茂雄に打撃の心得を聞いたら「ビューッと来て、バシンと打つ」と言われて途方にくれるように。(これはこれでわかる人にはわかる説明らしいです。私にはわからんけど)。

本来は自分でわかってるつもりの分野ほど「なぜ初心者はここで躓くのだろう?」と考えることは自分のためだと思うんだよね。自分がわかっているようでわかってないことへの理解も進むし。そして、躓いてる場面には滅多に遭遇できないので、私は 躓き情報を提供してくれる人には感謝している。

ということで、ハム将棋に負けた記事を書いている Guinea Pig さんの一連の記事を、感謝しつつ興味深く読んでいる。(注:ハム将棋はコンピュータ将棋としては弱い部類だけど、大抵の将棋初心者ではまず勝てない。だから「こまお」は福音であると思う。)

記事には子供のころに将棋を覚えた人があまり困らなくて、年齢がいってから覚えた人が困る点の一つである「利きの数」の話がでている。子供のころに覚えた人は、ある地点での利きの数の計算・駒の取りあいの勝ち負けの判断が瞬時にできる。取り合いはコンピュータ将棋でも基本的な概念で、ここを うっかりしてくれるソフトは少ないと思うし、だから初心者はコンピュータに勝てない。

ところが、利きの計算をすることは初心者にはかなり難しい。まず、脳内で駒を動かせないので、1つ1つ移動できる駒を確認しないといけない。ニコ生で初心者の対局をみていると、取り合いの確認のためにマウスカーソルをいちいち動かしているぐらい、脳内での確認は初心者には難しい。

そして、ある一地点の利きは計算できるようになったとしても「どこの利きを確認すれば良いか?」というのがまた難しい。コンピュータソフトは力ずくで1一から9九まで81箇所確認したりするけど、人間が全部確認するのは大変だ。これが大変だということが上級者にはわからない。「見ればわかる」なんて言われて初心者は途方にくれるわけだ。

利きと同じぐらい躓くのが駒割。王将が一番大事な駒で、龍>馬>飛>角…桂>香>歩の順に大事だという概念。駒損する攻めはしちゃいけないんだけど、これが難しい。「こまお」作者のtiharaさんのブログ(2012-04-18 – IHARA Note)にも駒損する初心者の話が出てくる。これも、わかってる人は脳内自動計算されるんだけど、わからない人はホント、いちいち足し算しないとわからない。以前も書いたけど(駒の損得なんて簡単に計算できるはずのに、明示してくれるソフトみたことない)、今現在の駒割りを表示してくれるだけで、どれだけ初心者は助かることか。


今の将棋ソフトと対戦する初心者は「補助輪無しの自転車にいきなり載せられた幼児」状態なのかも、と思う。まずは、三輪車なり補助輪付き自転車で自転車に乗ることを充分に楽しんでから、補助輪無しの快適なサイクリングに挑むのが良いんじゃなかろうか。そのためには、三輪車級のソフトがもっと出現することを望みます。

「こまお」作者のtiharaさんは、そこも理解されていて「こまお・10枚落ち攻略」を書いておられるのはさすがです。

あとは、素質のない大人向けの本ももっと欲しいですね。NHKは最近初心者向けに舵を切ったようで「将棋フォーカス」がかなり初心者向け。ほんと基本的ですが、これぐらいじゃないといかんのだよねえ (テキスト4月号5月号)。


そういえば、ハム将棋にはガイド機能やトレーニングがあって、かなり考えられて作られてるんだけど、これを使ってる初心者もあまり見かけない気がする。この機能はデフォルトでオンにしておいた方がいいんじゃないかな、と思ったり。
あと、弱いソフト作るのは大変です。「弱い人の棋譜を集めて機械学習すればいい」と思ってる人も多いですが、「集めた棋譜より強くなってしまう」「そもそも弱い人の棋譜を何万局分も入手できない」という問題がありますので。


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