初心者向け良アプリ 「羽生善治の将棋のお手本」
私が将棋を再開したときも 初級者向けの本は少なく、仕方がないので適当に将棋本を買っては挫折するということを繰り返した。今 思えばかなり遠回りをしたものだ。
(そのころを経験を元に書いたのが「初心者のための将棋入門書」)。
i羽生将棋の経験を元に開発
幸い、そのころに比べると本当の初心者に向けて作成された棋書やアプリが増えてきている。アイデスさんから発売されている i羽生将棋も初心者向けソフトの1つ。
i羽生将棋は、ある程度将棋を覚えた人からすると、一見簡単すぎるソフトに見える。対局モードは最高のレベル3でも相当に弱いし、詰め将棋は1手詰・3手詰が主だ。ところが、これでも覚えたての人には相当に難しいらしい。
開発元のアイデス山口さんのブログから引用する(強調部分は私)。
i羽生将棋を発売してみて、思った以上に、初心者が購入してくれてることがわかりました。
しかし、「Lv.2に勝てない」とか、だいぶ最初の段階でつまづいていることも逆によくわかりました。将棋は負けると非常に凹んでしまうゲームです。それが続けば嫌になってしまうでしょう。
まったく同感。「素晴らしい初心者向けコンピュータ将棋ソフト「こまお」」の紹介記事にも書いたように、世の中の将棋ソフトや将棋の本は難しすぎる。ハム将棋ですら強すぎるのだ。
(出版社も最近は「よくわかる~」等、初心者向けの本を出しているが、そのような本はまだまだ少ない)
そしてi羽生将棋の経験を元に初心者向けの定跡学習ソフトとして開発されたのが今回紹介する羽生善治の将棋のお手本〜初心者からの定跡講座〜。iPhone/iPad/iTouch用。
トップ画面
アイデスさんを応援する気持ちも込めて、早速「羽生善治の将棋のお手本」を購入してみた。170円。細かい定跡は有料の追加オプションとなっている(後述)。
起動後の画面には定跡を勉強するための「居飛車のお手本」「振り飛車のお手本」の他に「定跡を学ぶ前に・対局の基本」がある。順を追ってみてみよう。
定跡を学ぶ前に・対局の基本
駒の動かし方の次に覚えたいことを確認する画面だ。身につけておきたいことを一通り教えてくれる。
ただし本アプリだけでは基本が学べるほどの量はないので、先に入門書(羽生善治のみるみる強くなる将棋 3部作など)を読んだほうが良さそうだ。その後、定跡に入る前に本アプリで確認し、不足している部分を再度書籍で確認するような使い方が望ましいと思う。
振り飛車のお手本
私は四間飛車党なので居飛車は後回しにして、振り飛車を見てみる。
四間飛車・中飛車・三間飛車・向かい飛車がメニューにある。あるのだが、基本の170円には 四間飛車の基本・対棒銀と中飛車対居飛車急戦だけが含まれている。アイデスさんの定跡購入ページから用意されている定跡を引用する。プリインと書いてある部分は基本170円に含まれる。残りは1つ85円(まとめ買いすると安くなる)。
◆居飛車
相掛かり | 相掛かり基本系(プリイン)、棒銀(プリイン)、ひねり飛車 |
矢倉 | 矢倉新24手組と矢倉囲い(プリイン)、△超急戦棒銀、▲3七銀戦法(4六銀3七桂型) |
角換わり | 角換わり基本形(プリイン)、棒銀、腰掛け銀 |
横歩取り | 横歩取り基本形(プリイン)、△3三角戦法(△8四飛)、△8五飛戦法 |
対四間飛車 | 対振り飛車舟囲い(プリイン)、棒銀、斜め棒銀、4五歩早仕掛け、居飛車穴熊、右四間飛車(左美濃→銀冠) |
◆振り飛車
四間飛車 | 振り飛車基本形と美濃囲い(プリイン)、対棒銀(プリイン)、対斜め棒銀、対4五歩早仕掛け、藤井システム |
中飛車 | 中飛車 対 居飛車急戦(プリイン)、原始中飛車、ゴキゲン中飛車 |
三間飛車 | 三間飛車 対 居飛車急戦、早石田、石田流 |
向かい飛車 | 向かい飛車 対 居飛車穴熊、阪田流向かい飛車 |
三間飛車・向かい飛車が基本に含まれていないのは残念だが、本アプリの対象者がいきなり三間飛車を覚えることは少ないという想定なのだろう(それは正しいと思う)。
居飛車党が遭遇しがちな対三間飛車・中飛車がないのは少し残念。対四間飛車が充実してるのは、四間飛車党としては困ったものだと思う(^^;
対棒銀を試してみる
最近は角交換系の四間飛車ばかり指している私だが、以前は角道を止める四間飛車を主に指していた。もちろんバイブルは藤井猛先生の四間飛車を指しこなす本だ。
4五歩早仕掛けや居飛車穴熊相手にはそこそこ指せるんだけど、対棒銀は苦手だった。幸い羽生善治の将棋のお手本〜初心者からの定跡講座〜には対棒銀が含まれているので、それを試してみよう。
四間飛車対棒銀の基本では、初心者が遭遇しやすい居玉棒銀に対する指し方も説明されている。これは良い試みだと思う。
指し手の説明の直後に小テストがある。直前で説明したばかりなので当然正解になるのだが(上記画面)、このやり方はうまいと思う。定跡書を見るだけに比べると記憶に残りやすいし、○が付くのも気分が良い。
対棒銀定跡のテスト結果。意外に覚えてないものだ。端歩のタイミングなどの細かい部分はともかく、仕掛けられてからの手順を間違ってるのは少々恥ずかしい。きっと覚えた定跡が違うのだということにしておこう……
定跡書にあるような細かい変化は搭載されていないが、基本的な考え方はきちんと示されている。本アプリで学習した後によくわかる四間飛車などの入門者向け定跡書を読むと良いだろう。
こんな定跡も欲しい
将棋倶楽部24や他のサイトで対局すると、定跡書に載ってない戦法を使ってくる相手に遭遇する。むしろ初心者クラスだと定跡外の戦法の方が多かったりする。例えばこんな戦法。初心者狩りをする人に多い。
- 浮き飛車(アヒル系)
- 端角中飛車
- ハメ手っぽい早石田
- 右四間飛車(居飛車視点での右四間飛車はあるのに…振り飛車対右四間がない)
これらの戦法は最初のうちはどう対応していいかわからない。私もかなり苦労して対策を練った記憶がある(例:浮き飛車戦法対策メモ)。
これらの戦法への対処も追加定跡として出していただけると有難い。定跡書が存在しないような分野なので、追加定跡を作るのも難問かもしれないが……
追記:なんと、対速攻浮き飛車が定跡として追加されました。アイデスさん素敵!
その他にも矢倉対右四間飛車、対石田流(急戦)も追加されています。
門戸を開こう・敷居を低くしよう
将棋倶楽部24やその他のサイトでも初心者が参加すると大抵はボコボコにされる。初心者ばかりを狙って勝率を稼ぐ人やソフト指しをする人までいる。級位者が泣き言を言っても「強くなれば問題ない」と放言する人もいる。このような現状は将棋を趣味とする我々にとっては良いこととは思えない。入門者に門戸を開かない趣味はそのうち滅んでしまう。
そのような状況を改善するためにも、初心者向けの書籍・アプリには大いに期待している(子供向け・女性向けの棋書には初心者向けの良書も多いのだけど、いい歳のおっさんが読むには少々気恥ずかしい
羽生善治の将棋のお手本〜初心者からの定跡講座〜は良い試みだし、その狙いは成功していると思う。入門書の次に買うアプリとしてお勧め。アイデスさんには今後も初心者向けソフト開発を頑張って欲しい。
ディスカッション
コメント一覧
ご無沙汰しております。アイデス山口です。
こちらの記事で取り上げていただいております「羽生善治の将棋のお手本~初心者からの定跡講座~」ですが、
明日より追加販売定跡リクエスト大会を開催することになりました。
よかったら応募いただけたら、幸いです。
それで事後承諾で申し訳ありませんが、
私のブログの方で本イベントに関しての記事を取り上げた際に、テーマの「初心者の頃、ボコボコにされた戦法」について、こちらの記事をヒントにさせていただいたということで、一部引用とリンクをさせていただきました。
http://ameblo.jp/ides-yamaguchi/entry-11616053206.html
問題等ありましたら、修正等いたしますので、Twitterなどでご連絡ください。
今後ともよろしくお願いします。
どうも、はじめまして。アイデスの山口です。
「羽生善治の将棋のお手本~初心者からの定跡講座~」を取り上げていただきありがとうございます。
書き込むのは初めてかと思いますが、ブログの方は以前より拝見しておりました。「こまお」の存在は、ずさんのブログで知りましたよ。本アプリを考える上で、影響を受けた部分はたくさんあったかと思いますよ。
本記事も「よくぞここまで解説してくれた」って感じで、PCの前で感激に震えております。お互いに目指してる方向が近いんでしょうね。
なので、改めて補足するところなんてないですが、「書籍の補助」という部分で取り上げてくれたのは、非常に嬉しいことです。
私も仕事になったことをきっかけに将棋を始めたわけですが、多くの方と同様、入門書の前に難しい定跡書に手を出しては、積み上げていったタイプの人間です。将棋はルールを覚えてから、次にどうしていいか?ってところが非常に難しいんですよね。文中にもあるように、i羽生将棋を出してから、それを自己体験だけでなく如実に感じました。
そこで、
・初心者は難しい定跡書に手を出してしまう
を逆手に取り、定跡をテーマにし、今回のアプリで序盤の駒組みと攻めの一例くらい身につけていただいて、最初に買ってしまった定跡書はそのあとで使ってもらえればいい、っていう気持ちはありました。
定跡本以外にも、良質な書籍はたくさんありますし、今後も発売されると思うので、初心者からそういった書籍までの繋ぎになれれば、って思ってます。
もちろん、この1本で終わらせるつもりはございませんので、今後もご指導、ご鞭撻をよろしくお願いします。
まずはお礼まで。
また遊びに来ます。