「一手スキ」は「詰めろ」ではなかった?

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「成りルール」の件で入門書を読んでいたら、一手スキの説明に気になる部分があった。

即詰はないけれど、王手でない手を一手(あるいは二手、三手)かければ詰むときは一手空き(あるいは二手空き、三手空き)といいます。
図23(95ページ)では先手玉、後手玉ともにに一手空きです。もしこれで後手の手番なら☖3八馬とすればこれが詰めろで、先手は☗2二金を打つヒマがなく、後手の勝ちになります。

ロジカルな将棋入門  P.97  (野崎昭弘著、筑摩書房)

一手スキの意味が一手ずれている?

ロジカルな将棋入門の記述と図23を読むと、「何か指すと詰めろになる局面」を一手空きと呼んでいるようである。現在の普通の解釈では「手番なら即詰みがある局面=詰めろ=一手スキ」なので一手ずれている。

局面 通常の理解 ロジカルな将棋入門
手番であり詰みがある 即詰み(勝ち) 同左
手番ではなく詰みがある 詰めろ(一手スキ) 詰めろ
一手指すと詰めろになる 二手スキ 一手空き

Web検索すると、少ないながらも同様の事例があった。

詰めろの準備段階で、「仮に3手連続で指せれば、相手の王様に狭義の詰みが発生する攻撃側の動作」を言う
(中略)
つまり、詰めろを「零手スキ」と言い換えることもできる

単なる勘違いなら問題はないのだが、ロジカルな将棋入門は内容がしっかりかかれている良書であり、単純ミスとも考えにくい。

一手スキが詰めろではない時代があった?

Wikipediaには気になる記述がある。わざわざ (現代では) と括弧書きの注釈が入っている。昔は別の意味であったということを示唆している。

一手すき(いってすき)

(現代では)「詰めろ」と同義。「二手すき」なら、「詰めろ」になるまでもう一手猶予があるという意味になり、以下「○手すき」は猶予に応じて増える。

(Wikipediaは誤った記述も多く、引用をためらったのですが、他に良い例がありませんでした)

三省堂 大辞林の記述も興味深い。一手透きとは「一手指すこと」であって「局面の状態」ではないようにも読める。確かに、一手スキという用語は「一手スキをかける」のような形で使うことが多い。

いっ てすき [3] 【一手透き】
将棋で,次の一手で相手の王将を詰むために,王手ではない指し手を一手指すこと。つめろ。 → 即詰め

図書館の書籍を探したのですが、古い本ではそもそも一手スキという言葉がなく、新しい本では現在と同じ用例ばかりでした。

「将棋の手ほどき」(名人大山康晴推薦、七段山川次彦著、鶴書房)でも「詰めよ」の解説に「いわゆる一手スキのことです」と書かれていました。この本は1970年ごろに発行されたようなので、もっと古い本を探さないといけないのかも。

結論

昔の一手スキは現在の一手スキとは違う使われ方をされていたのではないか?と思われるのですが、証拠は見つかりませんでした。戦後〜1970年ごろの本を確認すれば何かわかるかもしれません。

ちなみに一手スキの表記も一手透き・一手隙・一手空きとあるようですが、どれが正しいのでしょう。わからんのでこの記事はカタカナで書いています。

Amazon:ロジカルな将棋入門

(良書です。出版されて30年近く経つので、内容を改めて再販して欲しい)

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