将棋倶楽部24の「ハム将棋アンケート結果」から考察する

2011/11/26レーティング, 将棋倶楽部24

 

将棋倶楽部24の「ハム将棋アンケート結果」が興味深い。ぜひ、クリックしてグラフ全体を眺めてから、下記の記事を読んで欲しい。

記事を読む際に「本当の初心者はハムに勝てない」ということも念頭に置いて欲しい。そんな初心者でも将棋を楽しみたいという気持ちを持っていることも。

では、まずは前提となるレーティングの話。

そもそも何故レーティングが必要なのか?

レーティングの役目には2つあると私は考えている。1つは自分の棋力を示す数値であり、もう一つは対局相手を選ぶ際の手合いの目安である。同じぐらいのレーティングであれば、同じぐらいの棋力であり、平手で対戦して良い勝負ができることを期待しているわけだ。
(これは始めたばかりの初心者には特に重要だ。始めたばっかりで手合い違いによる連敗があれば、せっかく始めた将棋を辞めてしまうかもしれない。先崎先生も駒落ちのはなしで書かれてましたね)

同じ棋力であれば(歳月を経ても)レーティングの数値が一定しているとなお良い。棋力一定でも対局時期によって大幅にレーティングが上下することは望ましくないと考える。

24のレーティングはどう計算されるか

将棋倶楽部24のレーティング計算は、以下の式で計算される(レーティング)。
(この式自体がどうよ、って議論はあるがそれは置いておく)

自分の新しい点数=自分の対局開始時の点数+(16点+(負けた方の点数-勝った方の点数)×4%)

2名の対戦者A,Bがいて、AがBに対して勝率75%であれば、2人のレートは200差でバランスする。この場合、Aは勝てば8点を得て、負ければ24点を失う。これが75%(3:1)で発生するから、200点差で安定するということだ。

R差勝率勝ち点負け点
0 50% 16 16
100 63% 12 20
200 75% 8 24
300 88% 4 28
400 100% 0 32

素直に計算するとR400点差で勝率100%、下位者は勝ち目無しという計算になる。もっとも、人間はポカをするので上位者の勝率はこの表より少し悪くなるが、傾向としては概ねこのような比率になる (将棋倶楽部24のレーティング R点差と勝率の関係に分析結果がある)。

レーティングから計算できる棋力とグラフを比較する

さて、上記の表からするとR300差なら9割近く勝てるはずだし、R400以上離れていればまず負けないはずだ。それを頭にいれてから、再度、「ハム将棋アンケート結果」を見てみよう。何かがおかしいと感じると思う。

私がハム将棋と対戦した感触や、ニコ生などでハム将棋と対戦している人のRから判断すると、ハム将棋の実力はR250~R300ぐらいだと思う。R300だとしても、R700(9級)から上はほぼ負けなしになるはずだ。謙遜しているのかもしれないが、「良い勝負(8級)」や「だいたい勝てる(1級)」というのは何かがおかしい。

また、「絶対勝てる」の割合が10級~6級あたりまであまり変化しないのも注目して欲しい。6級を超えたあたりから、「絶対勝てる」が増えてくる。

24のレーティングは棋力を示していないのではないか

24のチャットなどで、以下のような感想を聞くことがある。

  1. 中級タブに上がるまでが大変
  2. 中級タブに上がってしまうとあとは楽
  3. 14級~初心者は全然初心者じゃない

実際、初級タブにはいわゆる「過少」と呼ばれる「棋力を低く偽って初心者をいじめる人」がいたり、上級者が入会時にR0から始めたりするために、同じRでも棋力がバラバラだったりする。そのような強い人が強い人同士で潰しあいをしている結果、初級上位~中級タブの間ではR差ほどの棋力差が生じていないと推測されている。
(将棋倶楽部24のレイティングの妥当性|State of the Digital Shogics [最先端計数将棋学])

今回のアンケート結果は、推測を裏付けるものだと言えよう。

初級タブのデフレ問題はさらに深刻になるだろう

3点目(14級~初心者は全然初心者じゃない)は、24のレートがデフレにより年々厳しくなっているせいだと思う。本来、棋力が安定していればRも一定しているはずなんだけど、24のレーティング制度はおかしくて、(少なくとも初級タブでは)棋力一定ならRは下がる。そのため、現状R0に近い人は下りエスカレータを逆送しているように、頑張ってもなかなか上にいけないし、下手をすると下がってしまう。

R0が下限なので、いったんR0に達してしまうと、対局しても手合い違いばかりになり、ほとんど勝てない状態になる。連敗して面白い人はいないので、そういう人は辞めてしまう。すると、いままでR50ぐらいだった人が勝てる相手がいなくなって…… という悪循環が発生する。将棋倶楽部24の名簿検索で初心~15級を検索すると、勝率1割台でも頑張ってる人が多数いる。私なら耐えられない。
(入会直後に10連敗~30連敗ぐらいするのが普通なんですよね、今の24)

 このことは過去になんども指摘されているが、一向に改善されない。改善されないどころか、今回のアンケート結果にはこう書いている。「24デビューはハム将棋に1回勝ってからがいいかもしれません」。これをみんなが守るようになると、ハムに勝てる人だけがR0で入会する結果、デフレはますます進み、いよいよ初心者お断りの場所になるだろう。24の本音は初心者お断りなんじゃないか?と妄想してしまう。

上級以上の人は問題と感じないだろう

逆に、高段の方ではインフレが発生しているとも指摘されている。棋力が正規分布を取るとすれば、競技人口が増えれば最高レートは更新される。いわゆるソフト指しにより有段~高段タブの人口が増えれば、その部分のレートは上昇する。こちらはR0のような下限がないので問題になりにくい (連敗した人が辞める→さらに厳しいレーティングになる→連敗した人が辞める、の悪循環が発生しない)。

デフレの問題は全体の問題であり、棋力が高ければ個人的には問題は解決してしまうため、棋力の高い層には問題とは感じられにくい。就職難や失業の問題が、全体の求人件数が少ないことが原因なのに、個人の努力を理由にされることが多いのに似ている。どちらもシステムの問題なのに、個人のせいだと思われているわけだ。

初心者を誰が救済するのだろう?

初心者の裾野が広いことは、以前「将棋倶楽部24と81dojoのレーティング換算」にも書いた。24のレーティング換算でマイナス1000ぐらいまでの初心者層が存在しているが、そこを24はばっさりと斬り捨てている。

81dojoが受け皿になるといいんだが、まだ人口が少なすぎる。競技人口が少ないと適正な手合いがつきにくいので勧めにくい。人数が10倍ぐらいに増えるといいんだけど。ちなみに、81dojoでは初心者向けに弱いbotを常駐させていて、これは良い仕組みだと思う。連敗して辞める悪循環への対策にもなる。もう数種類botがいればなおいいのだけど。

また、他のゲームサイトにも将棋はあるんだけど、マナーが悪い(途中切断、暴言など)ところもあり初心者向けではないと思う。一番マナーの良い24が一番初心者に厳しいというのは、困ったものである。

現在、「将棋倶楽部24」のネット対局事業は将棋連盟に譲渡されていて「初心者お断り」の雰囲気をだすのは連盟としてもまずいんじゃないかと思うんだけど、そうでもないのだろうか。将棋強い人だけがお客さんだと思ってた将棋ソフトの惨状を見てると、初心者開拓は大事だと思うんだけどなあ。

最後に「24のレーティングは素晴らしい」の記事から引用します。

詰め将棋で、2級とか・初段と解いていたので、7級で登録してみました。
そしたらモーレツに連敗の嵐。
(中略)
その時、ここのレベルの高さを感じたのと共に、自分が13級なら、「10回やっても負ける気がしなかった、小学校のクラスメート達は何級で指せば良いんだ…?」と思いました。
また、ごんさんのレスにもあったように、「子供達はどうすればいいんだ?」と思いました。

現在では、本当に楽しく将棋を指させていたいてますし、無料で開放してくれる24に対する感謝の気持ちは計り知れません。
ただ、やはりできるなら子供層を筆頭にした初心者に対する門戸は開放して欲しいと思います。

参考リンク