「一手スキ」は「詰めろ」ではなかった? その2
「一手スキ」は「詰めろ」ではなかった? の続きです。
前回記事では、今で言う「二手スキ」を昔は「一手スキ」と呼んでいたのではないかという話をしました。国会図書館の書籍を調べてみると、現在とは違う使い方をしている事例がありましたので紹介します。
局面 | 現在 | 昔? |
---|---|---|
手番であり詰みがある | 即詰み(勝ち) | 同左 |
手番ではなく詰みがある | 詰めろ(一手スキ) | 詰めろ |
一手指すと詰めろになる | 二手スキ | 一手空き |
国立国会図書館 「個人向けデジタル化資料送信サービス」で調べてみた
今回の調査では「個人向けデジタル化資料送信サービス」を利用しました。国会図書館が2022年5月19日に始めたサービスで、国会図書館が所蔵する「絶版等資料をインターネット経由で個人に送信」するものです。東京・大阪の国会図書館に行かなければ閲覧できなかった資料を自宅で見ることができ、私のように古い資料を調べている人には実にありがたいサービスです。
実際に、「一手スキ」「一手透き」「一手隙」「一手空き」を検索してみましたが、見つかったのは「一手スキ」の2冊だけでした。
- 将棋 一手スキ – 国立国会図書館デジタルコレクション – 検索結果
- 将棋入門 : 駒の動かし方から初段まで|書誌詳細|国立国会図書館オンライン
- 将棋の勝ち方 : 定跡活用(実用百科叢書)|書誌詳細|国立国会図書館オンライン
将棋入門 駒の動かし方から初段まで
「将棋入門」は1952年に世界社から出版された棋書です。著者は棋士の山川次彦七段。
本書の「第一章 入門準備篇 將棋の小辭典」の「詰めよ」の項目には以下のように解説されています。現在と同じく「詰めろ」を「一手スキ」と呼んでいます。
詰めよ(つめよ)
詰めろとも云う。放置すれば此次詰むぞ、と云う指手の事で、所謂一手スキである。
「第四章終盤篇(寄せの手筋)」でも同様です。
一手スキは普通「詰めよ」または「詰めろ」と呼ばれ、絕對に受けのない「詰めよ」が、即ち「必至」である。
将棋の勝ち方 定跡活用
「将棋の勝ち方」は鶴書房から1953年に出版された棋書で、梶一郎八段と宮本弓彦三段の共著となっています。
本書の「第十章 名家の實戰に學ぶ」には下記のように書かれています。
この▲6二金と金を合わせて打つ手は、敵玉は一手では詰まないが二手目には詰みが生じるはやい手です。
これが二手すきの寄せであります。
これは下図の局面の解説です。この6二金打ちを放置すると6四角成以下の詰みですので、「詰めろ」になっています。
同じページに「自玉に詰みがないから、二手すきの手で十分です」とも書かれており、この章では「詰めろ」のことを「二手すき」と呼んでいます。
注意が必要なのは、前回記事にも書いたように、昔の一手すきは「一手指すこと」であって「局面の状態」ではない、と思われることです。本書でも「二手すきの寄せ」「ニ手すきの手」とあり、局面ではなく指し手を指しています。
ちなみに本書のP.241では「詰めろ」のことを「一手すき」と呼んでいて、記述が一貫していません。共著なので書いた人によって内容にブレがあるのかもしれません。
謎が謎を呼ぶ
昔は二手スキのことを一手スキと呼んでいたのではないか?、という説を調べていたら、詰めろを二手スキと呼んでいる事例も出てきました。謎すぎます。
今回調査した「将棋入門」は1952年出版、「将棋の勝ち方 定跡活用」は1953年出版ですので、ほぼ同時期の本の内容が食い違っています。どうも「詰めよ」「詰めろ」には共通の理解があったけれども、◯手スキは人によって違っていたのかもしれません。現代のようにインターネットもなく、書籍の出版・流通も少ない時代ですから定義にブレがあって当たり前なのかも。
局面 | 現在 | 昔? | 将棋の勝ち方 定跡活用 |
---|---|---|---|
手番であり詰みがある | 即詰み(勝ち) | 同左 | 同左 |
手番ではなく詰みがある | 詰めろ(一手スキ) | 詰めろ | 詰めろ(一手すき、二手すき) |
一手指すと詰めろになる | 二手スキ | 一手すき | ? |
今回の調査をしていると、昔は「必死」と「必至」が別の意味だったと思われる事例もありました。これは別記事にします。
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