将棋の「成り」ルールについて(1)

2017/05/30読み物

将棋の成りルールは、類似のゲームであるチェスやシャンチー(チュンジー)などと比べて複雑である。そのため、多くの書籍やWebサイトが誤った説明を行なっているのが現状だ。

仮に誤って覚えたとしても、友人同士の対局などで正しく修正されてしまうので、大きなトラブルにはなっていないのだが、それでも誤った説明が跋扈(ばっこ)しているのは問題だと考える。

以下に、正しい成りルールについての解説と、巷によくある誤った説明の例を挙げる。

正しい成りルール

プロ棋士の先崎学九段の著書から引用します。この本(やりなおしの将棋)は大人向けの将棋本の良書だと思います。

駒の成り方は基本的に二つあります。駒が動いて敵陣に侵入すると、裏返って成ることができる。また、すでに敵陣にいるのにまだ成っていない駒はどこへ動いても成ることができる。

他にも成りルールには細かい項目があるので、私なりに箇条書きにしてみました。成りルールの説明で非常に間違われやすい点は「敵陣に入ったとき」だけではなく、「敵陣から出るとき」や「敵陣内での移動」でも成れることです。

  • 「成る」とは、飛車・角行・銀将・桂馬・香車・歩兵の駒が裏返り、性能が変化することである。裏返った駒を「成駒」と呼ぶ
  • 盤上の自駒を移動する際、移動の起点または終点が敵陣である場合、その駒は成ることができる
  • 駒の移動後にその駒の移動可能な地点が全て盤外になる場合、その駒は成る必要がある。桂馬・香車・歩兵の場合にこれが発生する。成らない場合は反則となる
  • 成駒は取られて敵の駒台に置かれるときは元の駒に戻る。成駒を打つことはできない

他の将棋類似ゲームとの違い

チェスや象棋、チュンジーなどの将棋に似たゲームの多くは、成れる駒が歩に相当する駒(ポーン、兵)だけなので、ルールが簡単でわかりやすいです。将棋は後ろに戻れる駒(飛角銀)も成れるのがルールを複雑にしています。

成りルールの複雑さも将棋の魅力の一つなので、複雑なのが悪いわけではないのですが、説明しにくいのは事実です。

誤った説明の例

日本将棋連盟のサイトから引用します。下の例では「敵陣内での移動」が抜けています。「相手の陣地に進む」が敵陣内での移動も含んでいると解釈するのは(入門者には)無理があると思います。

相手の陣地(下図参照)に進むと、駒を裏返して、動き方を変える事ができます。これを「成る」といいます。また、相手の陣地から出るときも、成ることができます。ただし、「玉」と「金」は除きます。

同じく日本将棋連盟サイトの例です。こちらでは「相手の陣地に入」る場合だけが書かれており、出る場合や敵陣内での移動が明記されていません。

相手の陣地に入り、駒を裏返してパワーアップさせることを「成る」と言います。「成り」と言うのも同義です。飛車が竜になるように、成った駒は名称が変化しますが、総称して「成り駒」と呼びます。また、成れる状態なのにあえてならなかった時には、「不成(ならず・ふなり)」と呼び分けます。

どうして間違うのか?

多くの人には、自分が無意識に覚えてしまったことを説明するのが難しいためでしょう。将棋の棋書や解説を書く人の多くは、子供のころに将棋を覚えてしまっているので、「成りルール」などは当たり前過ぎて却って説明しづらいのだと思います。

もしかしたら、論理的に過不足なく説明するために、コンピュータ将棋のソースコードを人間向けに翻訳した方がわかりやすいかもしれません。

将棋の「成り」ルールについて(2) 将棋入門書を調べてみたに続く。

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